2007年12月26日

『短編バイロン詩集』13自然の祈祷

  第十三、自然の祈祷

  (一)

あゝ光明の父!
天の偉大なる神!
御身は失望の呻吟を聞かれしや、
人間の如き罪惡は長へに許され得るや、
邪惡は祈祷によりて償はれ得るや。

  (二)

あゝ光明の父!
我は御身を呼ぶ!
御身は我が精神の幽暗なるを見られ、
燕雀の倒るゝをさへ知らるゝ御身は、
罪惡の死を我より遠けらる。

  (三)

何等の聖社も、
何等の宗派も我は求めず、
あゝ我に眞理の道を示せ!
我は御身の全知全能を知る、
許せ、正せ、青春の過失を。

  (四)

愚者をして淫社を拜せしめよ、
迷信者をして高堂を讃せしめよ、
幾多の僧侶牧師をして、
己が陰暗の君權を擴張すべく、
不可思議の説話を以て盡惑せしめよ、

  (五)

あゝ/\微弱無知なる人間は、
浮華朽ち易すき石材の殿堂に、
莊嚴なる造物者の大威力を幽閉し得るや、
御身の聖殿は赫陽の輝く處、
地球、太洋、蒼天は、
是れ無限なる御身の玉座。

  (六)

人間はその種族を地獄に墮せしめ得るや、
語れ、凡て我に、
罪せられしその人は、恐ろしき、
暴風雨に死滅せざるべからざるかを。

  (七)

同胞は滅亡すべく定められ、
その精神は異なる望を供へ、
教訓は少しも鼓吹せられざるに、
尚ほ人々は樂園に達せんと僭望し得るや。

  (八)

説明すべからざる信條にによつて、
空想の歡苦を豫め定め得るや、
大地を匍匐する昆虫は、
如何で雄大なる神の宿志を解さんや。

  (九)

唯だ自己の爲めにのみ生き、
日々罪惡の上に漂へるもの─
信仰によつて、罪、償はれ、
如何で無涯のタイムを越へて生活し得んや。

  (十)

あゝ父よ、
我は何等豫言者の法則をもとめす─
御身の法則はあらゆる、
自然の事物の上に現はる─
我は己の不純と淺薄を知る、
されど或は、
滿腔の熱誠を以て御身に祈る!

  (十一)

無限無邊の大空を通じて、
燦然として彷徨へる星辰を導き、
物質の爭ひを鎭め、
我が歩む極より極に遍在する御身!

  (十二)

慧智を以て我を此處に置き、
欲する時我を取り去り得る御身、
あゝ!此定めなき地球を踏む間、
御身は茫漠なる擁護を我に廣む。

  (十三)

あゝ我が神!
我は御身を呼ぶ!
如何なる福社悲哀起るとも、
我の盛衰榮枯は只だ御身の命のまゝ、
我は只だ御身の保護に任せんのみ。

  (十四)

若しや此塵土は塵土歸せしとき、
我が精神は青空に浮揚するならば、
如何に御身の榮光ある名聲は崇拜せられ、
か弱き其音調を歌ふべく鼓吹せん!

  (十五)

さはれ、此悲走する精神は、
土石と共に永刧暗Kの墳墓に埋められ、
盡未來際、忌むべき死を出づる能はざるも、
生氣の迸する間、
我は飽迄で御身を祈らん。

  (十六)

我は過ぎにし御身の恩惠を謝さんがため、
我が無力淺弱の詩琴を彈ぜん、
あゝ我が神よ我は遂に、
この汚れ多き人世を去らんことを欲す!



祷はすべて「示+壽」、第3水準1-89-35、禱。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』43コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする

2007年12月27日

『短編バイロン詩集』14カロライン嬢(二)

  第十四、カロライン孃(二)

  (一)

御身の斯くも暖かなる愛情を述ぶるを聞きし時、
愛人よ、我は信ぜずとは決して思はず、
そは御身の唇は疑心を止め而して又
詐かれぬ光を湛ふるが故なるべし。
御身の目は

  (二)

されど尚ほ、此溺愛する胸は憧憬あこがれ最中もなかに、
愛の、木の葉の如く凋落せざるべからざるを憾み、
記臆は愁然として涙を流し、
その青春の光景を追想する年月の來るを悲む。

  (三)

あはれ美しき高フ毛髮の色褪せて、
微風に淡く淋しく打靡き、
そのもとどりに交ぢれる白浪は、自然の
衰殘の餌食なを證するの時必ず來るを憂ふ。

  (四)

神はあらゆる生物の運命として定めし宣告を、
例令我れ、決して擅まゝに冐さずと雖ども、
一度は御身より我を奪ふべき死の爲めに、
愛人よ、我が形態は陰闇に掩はるゝぞよ、

  (五)

可憐なる懷疑者よ、情念の原因もとを誤る勿れ、
御身の戀人の心は必らず侵し得るなり、
彼は忠實なる信念を以て御身の容姿を崇拜し、
御身の一涙一笑能く彼を哀樂せしむるの力あり、

  (六)

あはれ愛人―死は早晩我等を追及し、
離れずと誓ふ我等の胸と胸は、
強風地球のふところに横はる死者を呼び、
我等を覺醒するまで墓に眠らざるべからず。

  (七)

あゝ!さらば能ふ限り、我等をして
情緒より迸する快樂の不斷の流を盡さしめよ、
我等をして心ゆくばかり愛の祝福多き酒盃を周過せしめよ、
下界にある、あらゆる美味佳香を飽食せしめよ。



底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』48コマ〜
posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする

2007年12月28日

『短編バイロン詩集』15ヨルダンの河岸

  第十五、ヨルダンの河岸

  (一)

ヨルダンの河岸にアラブの駱駝彷ひ、
シオンの丘上に僞神の信者祈り、
バールの崇拜者はシナイの絶壁に禮拜し─
されど其處に假令其處にさへ─
あゝ神は!御身の電雷は眠るなり。

  (二)

其處は─御身の指の扁石を焦がす處、
其處は─御身の影の御身の人民を照す處!
御身の光榮は火焔の飾裝に被はれ、
御身自身─生者も見ず又減ぜず!

  (三)

あゝ!電光に於て御身の瞥見を現はし、
虚壓者の碎けし手より其槍を取れ、
如何に長く御身の邦土は虚壓者に蹂躙されしぞや、
如何に長く御身の殿堂は落莫たりしぞや、あゝ神!



焔は「火+陷のつくり」、第3水準1-87-49、焰。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』50コマ〜
posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする

『短編バイロン詩集』16婦女

※底本のページ欠損。最後の一行だけ残っていました。

この詩は『女よ』『女に』『女に與ふ』などの題で、ほとんどの翻訳叙情詩集に収録されています。『泰西名詩選集 バイロン詩集』にも翻訳があります。

  第十六、婦女

...

實に、永遠の金言なるべし。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』53コマ
ラベル:TO WOMAN 児玉花外
posted by 天城麗 at 12:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする

2007年12月29日

『短編バイロン詩集』17二人の別れ

  第十七、二人の別れ

  (一)

胸のもつれを、一言ひとことも、
語らで別れ、あはれ唯だ、
落つるは、玉か將た涙、
如何に春秋、送らんと。
離別の後を、つく/゛\と、
思へば胸も、はり裂くる。
花にもまさる、なれほほ
あやしき迄でに、色あせて、
送るキツスの、冷やかさ、
まこと思へば、そのときに、
悲しき今日けふの、前示さきだつと、
神ならぬ身の、なさけなや。

  (二)

東のそらの、ほの/゛\と、
けゆく朝に、置ける露、
憂ひになやむ、我が身には、
みぞれの如く、冷やかに──
今のなげきの、知らせかや、
つれなく觸れぬ、我が頬に、
嬉しきなれの、誓ひごと、
凡てあとなく、れ果てゝ、
優しき汝の、そのほまれ
今や早や、いと、輕浮かろやかに、
聞きて、我が耳、汝が名を、
ひそかに耻ぢぬ、胸の内。

  (三)

彼等は呼びつ、我が前に、
呼びつ彼等は、汝の名を、
我れには響く、弔鐘かねのごと、
我は慄戰ふるひぬ、しかすがに──
あゝ如何なれば、その初め、
月も羞らふ、其姿、
かくも可愛ゆく、汝ありし、
彼等は知らず、我れの名を、
汝をよく知る、この我れを──
あゝ/\我は、悲しまん、
可憐いとしかりける、汝の爲め、
語るに深き、その煩悶なやみ

  (四)

我等は逢ひぬ、ひそやかに──
我等は嘆げゝり、靜やかに、
月とも花とも、めでたりし、
汝の眞情まごゝろうつろひて、
汝の心の、變りしを、
あはれ何時いつの世、何處にて、
懊惱もだゆる我の、汝に逢はゞ、
如何に語らん、この胸を──
千々に亂るゝ、此胸を──
あゝ沈默と、熱涙と!
あゝ沈默と、熱涙と!



底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』53コマ〜
posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。