2007年11月01日

不信者 INDEX

『不信者』
バイロン卿 (1788-1824)著
小日向定次郎 (1873-1956)訳
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全34エントリー(2007/11/01〜2007/12/04)


  1. 献辞
  2. 公告
  3. 彼のアテネ人テミトクレスの墓の下に打ち寄せる、
  4. 海賊の小艇は隱れるに都合のよい、下方の小灣に潜んで、
  5. 死の音訪れの最初の日の過ぎないうちに、
  6. 忘れられてはゐないあの勇士の住んだ國土よ!
  7. お前の國の海岸を踏む人は何を語り得ようか。
  8. 遠々と、暗らく、青海原を掠めて
  9. 眞急ぎに彼が逃げて行つたとき
  10. 彼は鐙を踏んで立つた──顏には何か恐怖の色が見えた。
  11. あの時は過ぎた、あの不信者は居なくなつた。
  12. その泉を滿した流れは涸れて
  13. 來る人の足音が、聽へはするけれども
  14. 東洋の春の昆虫の女王が
  15. 色Kいハツサンは妻妾の部屋には寄りつかず
  16. レイラの眼のKい魅力を話しても効はあるまい。
  17. 嚴格なハツサンは二十人の家來を伴ひ
  18. その一行は遂に松林のあるところへ着く。
  19. 一潟千里の勢いで川が眞Kくなつて
  20. 軍刀は柄元まで碎かれてはゐるが
  21. 草を食む幾頭の駱駝の鈴が鳴つてゐる。
  22. 因果を思ひ知らせる、地獄の鬼の大鎌に刈られて
  23. 彼處にゐる孤獨な希臘僧はどう言ふ名前の男なのだ。
  24. 薄Kい彼の僧衣の頭巾の下にぎろりと光る
  25. 地を引きずる長衣を身の廻りに褶しあげて
  26. にやけた柔弱な男は戀愛に走り勝ちである、
  27. 「神父樣、あなたは平和な生涯を過されて來られた、
  28. 「私は彼女が好きでした、大好きでした。──
  29. 冷たい風土の人間の血は冷たい
  30. 「さうです、全く愛は天來の光明です。
  31. 「彼女はなくなつて終つても私は生きて居ました。
  32. 「今はむかし、もつと靜かだつた時のこと
  33. 「今更想像の閃めきなど言つてくださいますな。
  34. 「こう言ふのが私の名であり、こういふのが私の物語です。
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『不信者』01献辞/34

  土耳古の物語りの一斷片

一つの宿命的な思ひ出──我等の歡喜にも我等の苦惱にも等しく寥しい陰影を投げる一つの悲哀──
それへは人のはより暗らい或はより明るい何物も齎らし得ないし
それには歡喜も慰安にならず、苦惱も刺戟にもなりはしない。
ムウーア    


  サミュエル・ロウジャース殿に寄せて

 彼の天才に對する讃美、彼の人格に對する尊敬、しかしてまた彼の友情に對する感謝の、微少なれども、極めて誠意を籠めたる、その表象しるしとして
  此の制作に書を書き止めたるは
 彼に恩を感じ、深き愛情を持てる從僕
バイロン    

    千八百十三年五月  ロンドン。

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2007年11月02日

『不信者』02公告/34

  公告

 これらの筋道の通らない斷片が示す物語は今は昔程に東洋では普通ではなくなつた事情にもとづいたものである。と言ふのは婦人達が「往昔」より用心深くなつてゐる爲めか、或は基督教者が昔より幸運しあはせになつてるのか、或は冐險心が乏しくなつたが爲めかなのである。
 此物語は完結すると、一人の女の奴隸が貞操を汚したといふので、回教徒の風習に依つて、海中に投げ込まれ、彼女の愛人だつた若いヴエニス人がその復讐をしたといふ異状な事件を含んでゐた。その頃彼七島をヴエニス共和國が所有してゐて、ロシア人の侵略の後暫時はアルバニア人が掠奪を恣にしてゐたモレアから彼等が間もなく撃退された時だつた。ミシトラの掠奪が拒まれたのでマイナの住民が脱走した結果、その計畫を放棄することになり、モレアは荒廢するに到つた。その間到る處に行はれた殘虐は回教信者の記録にすら比類のないものだつた。

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2007年11月03日

『不信者』03/34

  不信者


  彼のアテネ人テミトクレスの墓の下に打ち寄せる、
 その浪を割る風は、そよりとも吹かない。
 その墓は斷崖の上に白く光つて
 救ひ効のなかつた國土の上に高く立つて
 家路に向ひ漕ぎ行く輕舟を最先まつさきに迎へてゐる。
 こんな英雄は何時また生れることだらう。

 清和さやかな風土ではある、惠まれた島々をいつくしむで
 季節ときといふ季節をいつも微笑むでゐる
 遠いかなたのコロナの丘から見ると
 それらの島を迎へ見る人の心を樂しませ
 そして孤獨に歡喜を與へる。
 海の頬は和やかに笑くぼをたたんで
 東洋の樂土である、その島々の岸を
 洗つて笑ふ潮に映つる
 山々峯々の色を照り返してゐる。
 一時の折節のそよ風が
 眞澄みの青海の面をさわがし
 一花でも木から吹き散らしでもすれば、
 そこに香が覺め、香が浮ぶ、
 穩やかな風はおのもおのも嬉しいかぎりである。
 何故かと言へば、崖の上に或は豁の上に
 そこに薔薇の花──夜鶯の妃と言はうか、
 夜鶯の歌の調べの百千の歌節が
 高い處で歌はれて、聽き手の處女の薔薇の花は
 顏を赤めて愛人の話に聽き入つて咲いてゐる。
 夜鶯の女王──花園の女王の薔薇の花は
 風にも撓まず、雪にも凍えず
 西の國の冬の寒さを遠く離れて
 穩やかな風に、和やかな季節に惠まれていつも
 自然の神の賜はり物の返禮に心を籠めて、
 比類のない美しい色と、薫り高い吐息を
 似るものもない尊き火+主香として天に贈り
 微笑みつつそれを受納される空に報ゐてゐる。
 其處には數々の夏咲く花が開いてゐて、
 愛人が戀を語り合ひさうな樹蔭の數々があり、
 數々の洞窟もあつて、休息の場處になる筈のものが
 客人まろびととして海賊が這入り込んでゐる。
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2007年11月04日

『不信者』04/34

 海賊の小艇は隱れるに都合のよい、下方の小灣に潜んで、
 通つて行く平和な船舶を窺つてゐると、
 やがて呑氣な水夫のギタの音が聞えて
 夕星ゆふつつの影がえ出す。
 すると海賊は漕ぐ艇の櫂の音を消して
 岩だらけの海岸を遠くまでのびる岩の影に隱れて
 夜歩るきの狼が餌食に襲ひかかり
 水夫の愉しい謠を唸り聲に變へてしまふ。
 不思議なことだ―場處を撰んで
 あらゆる色香と優美を混ぜて、恰も神の住家にと
 自然が定めて置いた樂園の中に
 そこに人間が、苦惱に愛着して
 それを傷つけて荒野に變へて了ふなんて。そうして、
 人間に一時間でも骨は折らせず、
 培養の手數をかけさせず、
 此の仙境の到るところに花は咲き匂つて
 人間の配慮を締め出しておきながら、初々しく口説くのは
 ただ痛めないで欲しいとだけなのに、その花を
 人間が野獸のやうに踏み躙るなんて。

 不思議なことだ、一方では凡て平和を保つてゐるのに
 激情は昂ぶるままに荒れ狂い、
 色欲と掠奪とが猛威を逞しくして
 この美しい國土くにに暗い影を投げるなんて。
 宛然まるで天人達を攻撃して、惡魔どもが勝をめ、
 解放された地獄の相續者が
 天國の玉座を占めて居坐はるやうなものだ。
 かうして歡喜の爲に造られたかうしたいみじき處場を
 滅ぼす亂暴者こそ罰あたりと言ふべきである。
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