2007年12月24日

『短編バイロン詩集』11我は快活なる小児たりしを願ふ

  第十一、我は快活なる小兒たりしを願ふ

  (一)

我は尚ほ山地ハイランドの岩窟に住み、
又は物凄き荒野を彷徨ひ、
或は恐ろしき暗碧の浪濤を横る、
快活なる小兒たりしを願ふ、
巍峩たる山岳の邊を喜び、
激浪奔騰する峭崖を愛する、
※儻不覊なる自主自由の精神には、
浮華なる低地ローランドの裝飾ふさはしからず、

(※は「にんべん+蜩のつくり」、第4水準2-1-59、倜)

  (二)

あゝ運命よ、此等文化の邦土を元とに歸し、
華美に響く此名稱を取戻せ!
我は卑屈淺薄なる人工を厭ひ、
權威に阿附する奴隸を惡む、
澎湃たる太洋の荒波轟く、
千山万嶽の中に獨り我を置け、
我は只だ昔我が若かりし時知れる、
懷かしき光景の中を再び彷はんことを欲す、

  (三)

我が生年は僅少なれど猶ほ我は、
此世界は我が爲めに設けられざりしを知る、
あゝ幾多暗Kなる陰影は、
何故に避くべからざる人の死期をす隱すぞや、
我は嘗て祝福多き空幻の光景──
一種壯麗なる夢を見たり、
あゝ眞理!何故に御身の憎まれし光は、かゝる、僞善多き世に我を起せしぞよ。

  (四)

我は愛せり──されど我が愛せしものは行けり、
友を持てども──我が幼時の友は去れり、
あらゆる既往の望みの過ぎし時、
あゝ此胸の淋しさや如何ならん!
例令酒宴の華美なる儕輩ともや、
只だ一時不快の念を散ずるとは云へ、
例令快樂は狂へる心をき亂すとは云へ、
あゝ此胸や──此胸や──尚ほ寂寥たり、

  (五)

權威、富貴、爵位によりて、
只だ友にもあらず、敵にもあらざる、
宴樂の侶伴を造りし人々の聲を聞くべく、
あゝ果して如何にものうきことぞや、
歳月により感情により變ぜざる、
忠實なる僅少の人を再び我に與へよ、
斯くして我は夜半の友と、
喧噪の樂しみの只だ空名なる處を飛び去らん。

  (六)

婦女、愛らしく美しき婦女!
我が希望、我が慰藉我が最愛なる御身!
たとへ嬌艶なる御身の微笑は失神に更りしとて、
今や我が胸は如何に冷やかなるべき!
徳操の知る、又は知れる如き靜やかなる、
胸の平和滿足を得んが爲に我は、
些の嘆き些の憾みなしに、
此悲哀多く雜閙せる處を棄てん。

  (七)

我は欣然として、人々の巣窟を去らん──
我は人類を憎まず、只だ避けんことを望む、
我は陰暗なる谿谷を要す、
その幽闇は我が陰鬱なる心にふさはしかるべし、
あゝ!斑鳩ハトをその巣に擔ふ、
羽翼を我に與へられしならば!
あゝ我は蒼々たる天空を劈ざき、
飛揚し※翔して懷かしき平和に於てあらん。



(※は「皐+栩のつくり」の「白」に代えて「自」、第3水準1-90-35、翺)

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』39コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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