2007年12月16日

『短編バイロン詩集』05カロライン嬢(一)

  第五、カロライン孃(一)

  (一)

どまれとてか、願ふにや、
きらめく、なみだに、滿されし、
優しきなれの、双眸を、
汝は思ふか、我れ見きと、
幾千萬の、言葉より、
猶ほいやまさる、眞情こゝろもて、
深くもなれの、嘆きしを、
我れは聞きぬと、は知るか。

  (二)

愛も望も、兩ながら、
消えて破れし、その時に、
落つる涙は、いと強き、
汝の悲愁なげきを、示せども、
さはさりながら、戀人よ、
痛苦いたでを負ひし、此胸は、
深き烈しき、哀傷に、
汝にも劣らず、波ぞうつ。

  (三)

さはれ憂悶なやみの、あらはれて、
我等の頬の、あかきとき、
又はやさしの、唇の、
我が唇と、合ひしとき、
我が目瞼まぶたより、ほどばする、
繁き涙も、汝が目の、
清き涙に、くらぶれば、
あゝ/\ものゝ、かずならず。

  (四)

燃ゆるが如き、我が頬を、
親しく汝の、感ずるは、
いと/\難き、ことならん、
されど流るゝ、の涙、
その紅色くれなゐを、鎭めさり、
汝の言葉は、だゝ獨り、
吐息つく/゛\、繰り返へし、
語らふ如く、我の名を。

  (五)

のう、戀人よ、我々は、
尚ほも無益に、嘆げきつる、
避くべからざる、運命を、
など、徒らに、愁傷いたむらん、
さはれ記臆は、只だひとり、
その面影を、留むれども──
されど一層ひときは、我々は、
憂悲なげきの淵に、沈みなん。

  (六)

なれ、懷しき、愛人よ、
さらば、さらば、あゝさらば!
よしや名殘は、盡きぬとて、
汝は哀惜うらまず、あるならば、
雲煙けむりの如く、消え去りし、
過ぎにし月日の、樂しみを、
汝の心は、思はずば、
我は願はん、只だ忘れんと!


カロライン孃はバイロンの戀人にして後にメルボーン侯爵の夫人となる、されど長くバイロンを慕ふて忘れず、戀々として餘生を終れり。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』25コマ〜


posted by 天城麗 at 18:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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