2007年12月15日

『短編バイロン詩集』03涙

  第三、涙

  (一)

友誼フレンドシツプ戀愛ラブ、の我等の同情を動かし時、
瞥見以て眞實トルースの現はるゝ時、浮華なる唇は、
優しき靨、愛らしき微笑を以て僞惑し得べし、
されど、眞實なる愛情の標據テストは涙なり。

  (二)

微笑や、屡、これ、只だ、
嫌惡を覆ひ恐怖を隱し、僞君子の奸計に過ぎず、
眞情まことを語る目の暫し涙に曇りし時は、
我に優しき嘆息を與へよ。

  (三)

温和なる慈悲チヤリチーの靈光は、
飾りなき純朴バーバリチーにより、
下界の死すべき吾人に、その精神を示し、
憫憐や、此徳の感ぜし處に溶け、
その露や、涙に散布せらるゝなり。

  (四)

吹き荒さむ、暴風と共に、
縹渺萬里、激浪高き、
大西洋を横斷せざるべからざる人や、
一趺直ちに、己が墳墓たるべき、
蒼海を彼顧るとき、
逆卷く紺青の荒波は涙と共に輝かん。

  (五)

光榮グローリーの華やかなる生涯に於て、
想像的花冠の爲めに勇士は死を恐れず、
されど戰場に葬むるとき、
その敵を讃美し、賞揚し、
涙を以て凡ての傷痍を洗ふ。

  (六)

あはれゆかしき戰勝の勇士や、
その高く躍る胸中の自負を以て、
鮮血淋漓なる其銃劍を棄て、
懷かしき己が愛人のもとに歸り、
艶妖のその身を抱き、
可憐なる瞼より涌き出づる涙を彼キツスする時、
あらゆる彼の勞苦や酬られたるなり。

  (七)

あゝ樂しきかな我が青春の光景や!
友誼と誠實の立脚地、
戀愛の流るゝ月日を追ひし處、
我は汝と別るゝに忍びず、
かうべめぐらして最後の一瞥をなせり、
あゝされど悲しい哉我目や、
涙に掩はれて、恰んど我は、
なつかしき汝の俤を見るを得ざりき。

  (八)

例令我が誓を最早彼女に語り得ざるも、
美しき彼女や甞て深く我を愛し、
閑寂なる園亭の蔭に於て、
麗はしき涙を以てそれ等の誓に、
報ひし其時を我れ記臆せり。

  (九)

我は、彼女かれの他の愛を得て、永く、
平和に幸福に生活するを祈る!
彼女の名を今尚ほ我は、心に敬せざるべからず、
甞て彼女は我が愛人なりしことを、
我は嘆息といきを以て棄て、
而して涙を以てその僞を許さん。

  (十)

汝、我が眞實の友よ、
我は汝に別るゝの前、我が胸に
此希望最も痛切なりき──
再び此靜けき幽處に於て我等は、
若しも互に邂逅するならば、
離別の時の如く涙を以て會はん。

  (十一)

我が精神の幽瞑界に飛揚する時、
我が屍は其棺車の上に横はらん、
我が屍灰の消盡する墳墓の傍を汝が過ぎる時、
あゝ!涙を以て其等塵埃を濡されよ。

  (十二)

何等華麗の大理石も、
虚榮兒の養生うみなせる、
悲哀の壯嚴にふさはしからず、
赫耀たる光榮、名譽も、
如何で我が名を飾り得ん、
あゝ我が求むるものや──望むものや──唯だ涙なり。



※屡→「尸+婁」、第3水準1-47-64、屢

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』20コマ〜


ラベル:THE TEAR 児玉花外
posted by 天城麗 at 14:37| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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