2007年12月04日

『不信者』34/34

  「こう言ふのが私の名であり、こういふのが私の物語です。
 御僧よ、聽いた秘密は人には告げぬあなたゆゑ
 哭き哀しむ私の歎きの數々をお耳に入れるのです。
 どんよりと曇りかかる此の眼が流せなかつた
 温情なさけあるあなたの涙を頂いて有難く思ひます。
 それから墓の片隅に投げ込み同樣に埋めて
 私の頭の上に置く十字架は別として
 行きずりの巡禮者の足を停めさせ
 穿鑿好おせつかいな異國人に讀まれるやうな
 名も紋も何んにもしるしはつけないでください。」

 彼は死にました、名についても家柄についても
 記念物一つ、證跡一つ殘しませんでした。
 但し彼が死んで行つた日に彼に贖罪させた
 懺悔僧が、話してはならないが、聽いた話は別です。
 彼が愛した女に就いて、彼が殺した男に就いて、
 知られてゐるのは此斷片的物語りだけなのです。


不信者 終


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
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