2007年11月29日

『不信者』29/34

 冷たい風土の人間の血は冷たい
 そういふ人達の愛は殆んど愛の名を値しないのです。
 ですが私の愛はエトナの火山の炎の胸に
  沸き立つ熔岩らばの洪水のやうでした。
 みやびめの情事いろごとやたをやめの監禁おしこめなどを
 めそめそ泣くやうな調子で私は喋れないのです。
 變つて行く顏色と、燒け焦がす血脈と
 ねぢ抂げはするけれど、愚痴はこぼさない唇と、それから
 裂けさうな心臟と、狂ひさうな頭腦と
 斷乎たる行動と、執念深い刄と
 私が感じ來てたし、今も感じるその全てが
 愛の表現となるのなら、私の愛はそれでしたし
 いろいろなにがにがしい證據で示されたのでした。
 ほんとです、私は啜り泣いたり溜息をすることは出來ないで
 手に入れるか死ぬかだけを私は知つてゐたのです。
 私は死ぬのです、でも先づ自分のものにしたのです。
 どうならうと私は惠まれてゐたのです。
 私が求めた運命を私は非難するでせうか?
 いいえ──殺されたレイラのことを考へなかつたら
 何にもかも奪られたつてびくともしないのです。
 あの苦しみと一緒にあの愉しみが得られるなら
 もう一度私は生きて戀をしてみたいのです。
 尊い牧師おぼうさま、私は歎きも、歎きもしませぬ!
 歎くのは死んだ彼女の爲め、死ぬ彼の爲めではないのです。
 彼女は立ちめぐる浪の下に眠つてゐます──
 ああ、せめて彼女が地上の墓に葬られたのでしたら
 此の破れさうな心臟と、どきどきうずく頭は
 彼女の狹い床を求めて共寢をするのですのに。
 彼女は生命と光明の姿でした。
 見た以上眼を離れないものになつたのでした。
 どこへ眼を遣つても顯ち現はれた私の
 思ひ出の曉の明星でした。


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
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