2007年11月25日

『不信者』25/34

 地を引きずる長衣を身の廻りにたくしあげて
  圓柱の立ち並んだ側廊下を彼は歩るいて行く、
 他人からは恐怖の目で見られ、自分は憂欝な眼で
  此僧院を神聖にする諸々の儀式を見ながら。
 だが聖歌が唱歌隊をゆさぶるとき、
 そして僧侶達が跪く時になると、彼は席を外して引き退つて行く。
 向ふの淋しく搖れる松明の灯に照されて
 玄關の中に彼の容貌が明るく浮ぶ。
 式がすつかり濟んでしまふまでそこに足を停めてゐて
 祈祷は聽きはするが一言も口にはしないのだ。
 ごらんなさい──ぼんやり輝された壁際で
 彼の僧衣の頭巾が跳ねられて垂れ下るKい頭髮が
 蒼白の額にもぢやもぢやに絡みついて
 宛然ごおごんがその怖しい前額に
 によろによろと動く眞Kな蛇の打紐を
 そこへ縛りつけてでもおいたやうだ。
 といふのは修道院の掟に彼は從はないで
 穢れたままに頭髮を延ばしておくからだが、
 その他の服裝は皆修道僧の服裝を身につけてゐるのだ。
 そして彼の神聖な誓願の言葉を聽いたことのない
 僧院に莫大な寄附をするのだが
 それは自尊心の爲めで、信仰からではないのだ。
 ほら、ごらんなさい、樂器に調和する
 讃美歌が次第に高く響きわたるときの
 あの鉛のやうな蒼白の頬を、反抗と絶望の
 混り合つた石のやうに無表情の樣子を。
 聖フランシス、神廟に彼の男を近づけないでください。
 でないと、神の怒りの畏ろしいしるしが
 明らかにされる心配があるかも知れません。
 若し惡の天使が人間の形をしてゐたら
 彼の男の姿はそれなのでした。
 安樂往生の契りにかけて、斷じて
 あんな顏なんて天にも地にもあるものではないのです。

  ×  ×  ×  ×  ×


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
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