2007年11月22日

『不信者』22/34

  因果を思ひ知らせる、地獄の鬼の大鎌に刈られて
 間違つた不信者はのたうたなければならないのだ。
 その鎌の呵責を脱れて淋びしく獨り
 閻魔の王座のあたりをうろつかなければならないのだ。
 いつも燃え熾つて、消すことの出來ない地獄の劫火に
 お前の心は迫められ、燒かれて居なければならないものだ。
 内心の地獄の拷問呵責はとても
 聽くにも耐えず語ることも出來ないものだ。
 だが、先づ最初に吸血鬼として送られ
 お前の死骸は墓から割き離されねばならないのだ。
 それからお前の故郷に氣味の惡るい出沒をして
 妻子眷族の血を吸はなければならないのだ。
 お前の娘の、お前の妹の、お前の妻の
 生命の流れを眞夜中に吸ひ干さなければならないのだ。
 是が非でも生きてるお前の青ざめた死骸に
 食べさせる馳走に嫌な思ひをしなければならないのだ。
 お前の爲に死ぬものがまだ息のあるうちに
 その惡鬼が自分達のおやだと知るだらう。
 呪ひつ呪はれつ涜神の言葉を取り交はしながら
 お前の家族の美しい花は、いづれも立ち枯れに枯れるのだ。
 だがお前の犯す罪惡の爲めに、死なねばならないものの一人、
 わけてももつとも年の少ない、もつとも可愛い娘がお前を
 父と呼んでお前を祝福するだらう──
 その言葉が、お前の心を火炎に包むだらう。
 でもお前は爲事を遂げて、娘の頬の最後なごりの色を
 娘の眼の最後なごりの閃らめきを、目に止めねばならないのだし、
 生命を失つたあを色を冷え冷えと包む、
 とろりとした最後の眼つきを、見なければならないのだ。
 それから、その金色の頭髮の捲き毛を
 穢れたお前の手で毟らなければならないのだ。
 その髮の一房を生あるうちに剪むだなら、
 深い愛情の抵當として身につけられゐるものを、
 今はお前の苦悶の記念物にお前は持つていつてしまふのだ。
 お前の血を分けた一番可愛いものの血で濡れてお前の
 齒ぎしる齒から、凄じい唇から、血が滴り落るだらう。
 それからこつそり、陰氣なお前の墓へ歩いて行つて──
 惡鬼羅刹と一緒になつて、亂舞するのだが、
 惡鬼だつて羅刹だつて、もつともつと罰當りの
 幽靈おばけに避易して逃げてしまふだらう。

  ×  ×  ×  ×  ×


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。