2007年11月15日

『不信者』15/34

  色Kいハツサンは妻妾の部屋には寄りつかず
 女には眼を向けもしない。
 爲慣れない狩りに時を使つてゐながらも
 狩り人のその歡喜をわかつこともない。
 彼の宮殿にレイラが住まつてゐた時は
 ハツサンは斯んなに家に居つかないことはなかつた。
 レイラはもう邸宅やしきには居ないのか?
 その話しならハツサン丈しか話せないのだ。
 私達の市では妙な噂が飛んでゐる、
 ラマザンの祭りの日の陽が落沈んで
 そこかしこの寺院てら寺院の長尖塔から閃めく
 無數の灯火らんぷが廣大な東洋の國トルコの中に
 バイラムの祭を告らせた時の
 その夕暮に、レイラは出奔にげてしまつたのだ。
 その晩、彼女は風呂場に行く風をして出てしまつたのだ。
 怒に燃えて、ハツサンは風呂場を探したが居なかつた。
 ジオジア人の小姓風に姿をやつして彼女は、
 主人あるじの激怒を脱れたのだつた。
 回教の君主ハツサンといえどもどうしようもない
 あの不信の異教者と共に彼に耻を與へたのだつた。
 そのことをハツサンは考えて見ないこともなかつた
 だが、レイラがいつも可愛らうたく、いつも美しく思はれて、
 レイラをすつかり信頼しきつてゐたのを
 裏切つたのだから殺されても仕方がなかつたのだ。
 その夕ハツサンは寺院に出向いて
 そこから自分の凉亭での食宴に出かけたのだつたとは、
 預かつておきながら、その預かりものの監視をおこたつた
 ぬびあ人の女どもの言ふところなのだつたが、
 他の人達の話しでは、その夜、
 青白く照らす月の震へる光で
 眞Kな馬に跨つた異教じやわあ人が見られたが
 血塗れの拍車をかけて海岸沿ひを
 獨り馬を急がして行つただけで
 處女をんなも小姓も、馬の後には乘せてはゐなかつた。

   ×  ×  ×  ×  ×


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
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