2007年11月06日

『不信者』06/34

  忘れられてはゐないあの勇士の住んだ國土よ!
 平野から山の洞穴へかけて、その國土一帶は
 自由の民の故郷であり、榮譽ある人の墓所であり、
 偉大なる者の神社であつたのだ。
 希臘の遺物がただこれだけの筈はないのだ。
 近づいて見るがよい、卑怯卑屈な奴隸よ、
  どうだ、此處がセルモピレエではないか、
 周圍を洗ふ青い浪は昔ながらの青さだ。
  噫、彼の自由の民の奴隸根性の、子孫達よ、
 此處は何と云ふ海なのだ、何と云ふ海岸なのだ?
 サラミスの灣、サラミスの岩だらう。
 是等の風景も、その物語も知らない人はないのだ。
 起て、起つて再びお前の物にするのだ。
 お前達の祖先達の死灰から
 祖先の熱情の火の燃え屑を攫み取るがよい。
 そしてその戰ひに戰ひ死ぬものは
 お前達の壓制者が聞いて身震ひをする
 一つの怖ろしい名を祖先のそれに附け加へて
 息子達に一つの希望、一つの名聲を殘すだらうし、
 息子達もまた耻辱より寧ろ死を欲すだらう。
 何故なら、自由の戰ひは一度やりだしたら最後、
 血を流すおやから子へ遺し傳へて
 縱令屡々敗れても、いつかは勝つものだから。
 希臘よ、お前の現在の記録に證據をとどめて、
 數百年の永き時代に證明するがよいのだ。
 塵挨だらけの暗に隱されて王者達が
 無名の金字塔を殘してゐる間に
 お前の英雄達は、縱令その墓が支柱さへも
 失つて終つてるのが一般の運命ではあるけれど、
 その墓より遙かに偉大な記念碑とも云ふべき
 祖國の山々を自分の物だと主張する權利を持つてゐる。
 お前の國の詩の神は他國人の眼に
 亡ぼすことの出來ない人達の墓をそこに指し示すのだ。
 隆んであつた名聲が耻辱に墮ちて行つたその一歩一歩を
 尋ねることは悲しく、話したら長いことであらう。
 お前の魂が自分で墮落したまでは──もう云ふまい──
 どんな外敵もそれを抑へることは出來なかつたのだ。
 さうだとも、自己抛棄がやすやすと惡者の束縛と
 專制者の支配を受けるに至らしめたのだ。


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
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