2007年11月03日

『不信者』03/34

  不信者


  彼のアテネ人テミトクレスの墓の下に打ち寄せる、
 その浪を割る風は、そよりとも吹かない。
 その墓は斷崖の上に白く光つて
 救ひ効のなかつた國土の上に高く立つて
 家路に向ひ漕ぎ行く輕舟を最先まつさきに迎へてゐる。
 こんな英雄は何時また生れることだらう。

 清和さやかな風土ではある、惠まれた島々をいつくしむで
 季節ときといふ季節をいつも微笑むでゐる
 遠いかなたのコロナの丘から見ると
 それらの島を迎へ見る人の心を樂しませ
 そして孤獨に歡喜を與へる。
 海の頬は和やかに笑くぼをたたんで
 東洋の樂土である、その島々の岸を
 洗つて笑ふ潮に映つる
 山々峯々の色を照り返してゐる。
 一時の折節のそよ風が
 眞澄みの青海の面をさわがし
 一花でも木から吹き散らしでもすれば、
 そこに香が覺め、香が浮ぶ、
 穩やかな風はおのもおのも嬉しいかぎりである。
 何故かと言へば、崖の上に或は豁の上に
 そこに薔薇の花──夜鶯の妃と言はうか、
 夜鶯の歌の調べの百千の歌節が
 高い處で歌はれて、聽き手の處女の薔薇の花は
 顏を赤めて愛人の話に聽き入つて咲いてゐる。
 夜鶯の女王──花園の女王の薔薇の花は
 風にも撓まず、雪にも凍えず
 西の國の冬の寒さを遠く離れて
 穩やかな風に、和やかな季節に惠まれていつも
 自然の神の賜はり物の返禮に心を籠めて、
 比類のない美しい色と、薫り高い吐息を
 似るものもない尊き火+主香として天に贈り
 微笑みつつそれを受納される空に報ゐてゐる。
 其處には數々の夏咲く花が開いてゐて、
 愛人が戀を語り合ひさうな樹蔭の數々があり、
 數々の洞窟もあつて、休息の場處になる筈のものが
 客人まろびととして海賊が這入り込んでゐる。


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 不信者 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。