2008年08月08日

『短編バイロン詩集』38マルタ島に別る

  第三十八、マルタ島に別る

  (一)

あゝ、さらばよ、汝等、ラバレツトの歡喜!
さらばよ、心地よき暖風、太陽及濕氣!
さらばよ、汝、稀に入りし華麗なる宮殿!
さらばよ、汝等邸宅──そこは我の敢て入りし處!
さらばよ、汝等、階段多き惱ましき市街!
(あゝ如何に登りし人は汝を罵りしぞ!)
さらばよ、汝等失敗し易しき商人!
さらばよ、汝常に騷わぐ暴民!
さらばよ、汝等書状なき──小包!
さらばよ、汝等、汝の良風を做ひし愚人!
さらばよ、交通遮斷を惡みし汝、
そは我に熱病と憂憤を與へしもの!
さらばよ、我等を厭かしめし演劇諸君!
さらばよ、貴顯閣下の舞踏者!
さらばよ、ピーター──何等の過失なくも、
然かも一大佐にウオルツ踊を教へ能はざる人、
さらばよ、汝等あらゆる美徳を具へたる婦女!
さらばよ、赤色衣服及深紅の顏!
さらばよ、「アン、リミテール!」を濶歩する
凡ての傲慢なる態度、
我は塵烟多き都市、雲霧繁げき空、
及び實は凶惡なる事物に行かん、
さはれ何時又は何故かは神之を知る──
而して行く道も他と異なれ──

  (二)

あゝ眞碧の戰勝男子、
さらばよ、さらば!
アドリアチツク海岸及び
討死せる勇士、沈滅せし艦隊、
夜々の微笑、日毎の馳走、
汝戰宣と婦人の勝利者、さらば。
語るにふさはしき且つ我が詩文を取る、
我が詩神ミユーズよ、許せ──そは「無酬グラチス」なれば。

  (三)

今や我フレザー夫人のもとにあり、
我彼女を賞さんが爲なりと汝は思はん──
我が賞讃はインキの此滴りに價ひせりと
我れ考へには餘りに無益なりき
一行──又二行──何の難きことならず、
げに此處に我は阿諂するを要せざるなり、
されど快活なる調と曇りなき情を以て、
虚飾なき優雅の安靜を以て、
我よりも一層善き賞讃に、
彼女は身の輝くに甘んぜざるべからず、
彼女の歳月は樂しく花やかに轉じ
決して浮歌の助を要せざるなり。

  (四)

あゝ今やマルタ島!汝我を得しより、
汝小さき兵軍の暖室!
我は不禮の言語を以て叛かず、
粗暴にも、汝を惡魔に於てあれと願はず、
されど只だ、我が窓扉より凝視して
其處は何なりやと問ぬべし。
斯くして我が淋しき隱處にて
書を讀み文を草し又は
符箋に從ひ毎時二匙づゝ、
我の能ふ間醫藥を取り、
頬當ビーバーよりも夜帽ナイトカツプを撰みて、
我は諸神に祈らん──我は熱病を得たり



底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』112コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。