2008年08月07日

『短編バイロン詩集』37或る婦人に与ふ

  第三十七、或る婦人に與ふ

  ==捲髮を送りて師走の一夜
      庭園に會合を乞ひし女へ==

かくも可憐に纒ひし此等の捲髮は、
愛の空幻あだに雄辯を鼓吹せる、
無意味なる百千萬の明言あかしより、
一層堅き鎖に我等の心を結べり。
我等の戀愛は定まりぬ、
我等はそを證せりと我思へり、
 時 タイム 處 プレース、又は
何等の技術もそを動かさず、
さらば何故に我等は嘆き悲しみ、
理由なき猜恨を以て怨むにや、
只だ我等の戀愛を小説的にするために、
愚かなる幻想と狂暴なる空想を要するか、
何故に御身はリヂアラングイシユの如く泣き、
自ら造れる煩悶を以て怒るにや、
さらずは、可愛いとしと思ふ御身の戀人を
身も凍へる冬の夜中に嘆かせて
木枯荒さむ淋しき木蔭に許を乞ふは、
唯だ會合の場所の庭園なるによるか、
何となれば庭園は一諾にて、
セークスピーアの先例を造りし以來、
ヂユリエツトの初めて、燃ゆる情緒をもひを明かせし以來、
密會の場所にふさはしく見ゆるが故なり、
あゝ!或る現代の詩人を鼓吹して
海炭の熱火のほとりに彼女を置かんことを欲す、
若しや又、其詩人クリスマスに著作して
戀愛の地をブリテンに置きしならば、
憫憐故に、彼は確かに、
叙情の場處を變ぜしならん、
伊太利には我何の異議なし、
長閑なる夜は、追想に適當なり、
さはれ此處我等の氣候は、
寧ろ戀愛の凍らんばかりにいと劇し、
願くは寒冷なる我等の地位を思ひて、
模做の此熱望ねがひを制せ、
而して我等をして以前の如く、
太陽の光輝のもとに會合せしめよ、
若しや又、宵に我と會ふを要するならば、
御身の邸内にて我と會はしめよ、
其處に我等は數時の間、共に/\相愛せん、
そは蕭條たる風雪の天候にて、
常に、田園の戀愛を見るなる、
あらゆるアルケヂアの樹林に置かるゝより
いと/\樂しく嬉しき事ならずや、
斯くしても我情緒、喜ばしと思はざらば、
翌夜我凍ゆるもつゆ憾みなかるべし、
最早我は口さがなき他人に笑はしめず、
以後は永遠に我が運命を呪はんのみ。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』110コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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