2008年07月31日

『短編バイロン詩集』30詩神に別れを告ぐ

  第三十、詩神ミユーズに別れを告ぐ

  (一)

幼時より我を支配せし御身威力パウワー
空想フアンシーの若き子孫我等は今や、
互に別れざるべからざる時なり、
故に我が心情より發出せるつめたき流なる、
此最後の詩歌を疾風の上に揚げよ。

  (二)

最早歡喜を感ぜざる此胸は、
放恣なる御身の音調を鎭め、
又は歌はんと御身に切願せざるべし、
御身に高翔を教へし幼時の感情は、
遙か/\無情アパシーの羽翼に於て飄ひぬ。

  (三)

粗暴に響く我が詩琴の樂旨は、
例令單調無趣味なりとは云へ、
尚ほ此樂旨にさへ永久に別れぬ、
我が夢の鼓吹せし眼は最早や輝かず、
悲哉我が幻影は又と再び飛揚せずなりぬ、

  (四)

酒盃を喜ばせし飮料の涸らさるゝ時、
延ばさんと欲する努力や如何に無益なるべき!
我が精神中に宿りし美の、
一旦冷靜となるや空想フワンシーの、
如何なる魔術か我が詩歌を伸べ得べき?

  (五)

荒野に於て獨り、唇は戀愛ラブを歌ひ、
今や棄ざるべからざる微笑と接吻を歌ひ、
又は既に過ぎ去りし月日を、
安然として喜び居るものなるや、
あゝ否!此等の月日は今や我が者にはあらざるなり。

  (六)

我が深く愛せし友を彼等は語り得るか、
あゝ慥に愛性は詩歌を崇高にす!
されど我は最早や再び、
彼等を見んと望み能はざる時、
如何に我が調節は同情に於て動くぞや。

  (七)

我は我が祖先の爲せし行爲を歌ひ、
父祖の名譽の爲に、
我が調高き竪琴を彈じ得んや、
あゝ如何に彼等の光榮には我が調や弱からん!
英雄の功績には如何に我が情火や適せざらん!

  (八)

さらば、我が詩琴は、
觸れずして一陳の疾風に應ずべし──
そは靜められ、我が弱き努力は盡きぬ、
而して、それ等を聞きし人々は、其低音の、
再び響かざるを知らば、既往を許すなるべし。

  (九)

きの愛情と戀愛の曇りなば、
その粗莽なる節調は直ちに忘れられん、
あゝ!我が運命は祝福され、
我が宿命は至幸にして我が愛の、
最初の歌調は最愛にして最後のものなりき。

  (十)

さらばよ、我が若き詩神ミユーズ
我等は今や再び逢ひ得ず、
我等の詩歌は弱かりしも僅少なり、
願はくは、我等をして、永劫の離別を封ずる、
此現在は、我は快からんと望ましめよ。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』86コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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