2008年07月29日

『短編バイロン詩集』28御身は幸福なり

  第廿八、御身は幸福なり

  (一)

あゝ!御身は幸福なり、而して我は、
斯く又幸福ならざるべからざるを思ふ、
是れ我が心は、以前爲したりし如く、
尚ほ只管御身の福利を願へばなり。

  (二)

御身の良人は祝福せる──而して彼の、
一層幸福なる運命を見れば幾何の苦惱なき能はず、
さはれそを顧みる勿れ──彼若し御身を愛さざれば、
あゝ!如何に我は彼を憎むならん。

  (三)

近來、我れ愛らしき御身の子を見し時、
我が心は猜怨の念に破るゝならんと思へり、
されど無邪氣なる其子の微笑せし時、
我はその母の爲めにそを接吻しぬ。

  (四)

我はそを接吻せりし而して我はその顏の、
父に似たるを見て、強いて吐息を抑へぬ、
されど母その儘の眼を見し時、
我は何となく切愛を感じたりき。

  (五)

メリーさらば!我は去らざるべからず、
御身の幸福なる間は我は悲しまざるべし、
さはれ我は御身近く止まり能はず、
我が心は忽ち又、御身のものとなるべければ。

  (六)

我は其時、其華奢は、遂に、
我が小兒らしき情火を滅せしと思ひぬ、
我は御身の傍に坐せしまで、希望を除きては、
我が心全く同一なるを知らざりき。

  (七)

尚ほ我は靜かなり、我は我が胸の、
御身の前に震はん時を知りき、
されどそは今や一の罪惡となりぬ──
我は會へり──さはれ我が心些も動かざりき。

  (八)

我は御身の我が顏を見詰むるを見し、
されど何等の感動もあらざりき、
御身は唯一の感情──
失望の淋しき靜けさを辿り得べし。

  (九)

去れよ、去れ、去れ!我が既往の夢、
記臆も再び覺むべからず、
あゝ!幻影のそれにも似たる忘川リースは何處にかある、
はかなき我が心や靜かなれ、然らずは破れなん。



底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』81コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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