2008年07月28日

『短編バイロン詩集』27若き友

  第廿七、若き友

  (一)

例令只だ名に於てなりと云へ、
嘗て御身と我と斷金の友たりしより、
落花流水早や數年を過きぬ、
されと快活なる少年時代の眞實は、
長く我等の感情を尚ほ變らずに保てり。

  (二)

然し御身は我の如く瑣々たることも、
屡々友情を追想するを餘りによく知れり、
而して一度愛せし人々も多くは全く、
其交情を忘却すること餘りに速かなり。

  (三)

友情は實に斯の如き變化を現はす、
脆弱は青春期の友誼の常にして、
一月の短き經過恐らくは只た一日なりとも、
御身の心は再び疎遠となりしを見得るべし。

  (四)

果してその如しとすれば、斯の如き友情を失ふとも、
我れ決して悲しむを要せざるなり、
御身をかくも浮薄にせしは、
我が過失にあらずして自然の過失なりき。

  (五)

變化多き太洋の潮流の鼓動すると均しく、
人間の感情は斷えず弛張するなり、
欝勃たる熱情の燃ゆる胸に、
誰か信託の重きを欲するものあらんや。

  (六)

例令共々養育せられざるも、
少年時代は確かに樂しき月日なりき、
我人生のなつかしき春は速かに過ぎ去りて、
御身も又最早少年にあらざるなり。

  (七)

我は花やかなる青年に別を告げて、
僞善的なる浮世の支配に從ふ時、
悲哉我等は眞理に離別し、而して
浮世は純潔にて尊ふとき心を汚すなり。

  (八)

あゝ嬉しく樂しき年月や!
心、敢然としてあらゆる事物を服せんとする時、
思想は語らざるに自由にして憚る處なく、
清く麗はしきその眼に輝く時。

  (九)

されど人は成年期に達すれば
自身は只だ一種の器具に過ぎずして、
利害は我等の希望と恐怖を左右し、
あらゆるもの皆器械的に愛憎せざるべからず。

  (十)

我等は類せる惡徳に於て均しく、
痴愚を以て遂に過失と混同するを學ぶ、
而して此等の人々は獨り只だ、
友人なる忌むべき名稱を得らるゝなり。

  (十一)

斯くの如きは普通人間の常習なり、
さらば我等は此愚行より免れ得るか、
又は此一般の方法を覆へし若しくは、
避くべからざる自然の慣勢抗し得るや。

  (十二)

否、我に於ては人世のあらゆる方向に於て、
我が運命はいと/\暗黒なりき、
我は人類と此世を憎むこと甚だしく、
此光景を棄つるも些の憾みなし。

  (十三)

されど御身は螢の如く夜中光れども、
太陽の赫耀たる輝きに堪へざる如く、
輕佻にして浮薄な心を以て、
須し輝くと雖ども忽ちにして消え去らん。

  (十四)

あゝ悲しむべきかな!愚行の、
王侯と侫者と會する處に呼ばるゝ時や、
王宮に於て第一に寵愛せらるれば、
歡迎の惡徳は親切に、會釋するなり。

  (十五)

たとへ今なりとも、御身は夜々
侫媚する人々に一の昆虫を加へ、
尚ほ御身の輕薄なる心は虚榮者を喜び惘慢者を好む。

  (十六)

快活なる花壇を飛ぶ、
己が味ひ得ざる花を染むる蠅の如く
御身は熱心なる早さを以て媚笑しつゝ、
美より美へと斷へず飛び移るなり。

  (十七)

されど如何なる幸福の乙女の、
卑濕の蒸氣搖曳する如く、
婦女より婦女に飛び行く、
愛の燐火とも見る焔を得ることぞ?

  (十八)

よしや愛せしとは云へ、如何なる友人が、
御身の爲めに親切なる注意を得んと務むるや、
如何なる人が、愚人も得る友情故に、
その男らしき心を貶するものあらん!

  (十九)

時日を忍べ、群集の中にも最早
斯の如き卑賤なるものは見られず、
斯の如く怠惰に過ぎ去らず
正しくふさはしき確實のものとなれ。



(二)屡は「尸+婁」、第3水準1-47-64、屢。
(十七)焔は「火+陷のつくり」、第3水準1-87-49、焰。

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』76コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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