2008年07月26日

『短編バイロン詩集』25ヘロードの嘆き

  第廿五、ヘロードの嘆き

  (一)

あゝマリアン!今や御身故、
御身を血濡らせし胸は破れつゝあり、
怨恨は苦悶の爲め失はれて、
憤怒は變じて劇しき侮恨となりぬ、
あゝマリアン!何處いづこに御身はゐますか、
御身はらき我が辨疏を聞き能はず、
あゝ!御身若しも聞き得るならば──
假令皇天我が願を顧みずとも、
あゝ今や御身は此の我を許すなるべし。

  (二)

あはれ、彼女かれは死せしか──彼等は我が、
狂ひて猜怨深き憤怨に服したりしや、
我が怨は唯だ我が身の失望となり、
彼女かれを打ちし刄は今や我が頭に搖曳せり──
さはれ虚役の憂目に逢ひし我が薄命の愛人!
あゝ御身の死體むくろは早や冷やかなり、
而して我が幽暗なる此胸は、
獨り天國を飛行し、我が心を救ふに足らぬものとして、
後に殘こせし御身を空幻に憧憬しつゝあり。

  (三)

嘗ては我が王冠を分けし彼女かれけり、
彼女は我が快樂を葬りて沈めぬ、
我が猶太の幹莖みきより其花を拂ひしが故に、
繁れるものは只だその梢葉のみ、
我が心は罪人にして我が身は地獄なり、
此胸の荒廢は定罪さだめにして、
盡しせども/\尚ほ盡きざる、
此等の苦痛と此等の煩悶とを、
あゝ我れ受けしは實に當然の事なるぞ!

マリアンはヘロド大帝の妻にして絶世の美女なり、不幸にして不具なりとの嫌疑を受け、夫はヘロドの殺す處となる。ヘロド後侮恨遣るかたなく遂に發狂するに至れり。


(※(一)辨疏の疏は「足へん+流のつくり」、第4水準2-89-31、䟽。弁疏。猶太はユダヤのこと)

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』72コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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