2008年07月24日

『短編バイロン詩集』23若く麗はしくして御身は逝きぬ

  第廿三、若く麗はしくして御身は逝きぬ

  (一)

死すべき生物のそれの如く、
御身は若く麗しくて逝きぬ、
かくも優しき姿とたぐひ稀なる美を持ちながら
餘りに速に地球に歸れり!
例令地球は其寢床を受け、
群集は喜ばしく快活に、
その土の上を横ぎると雖ど、
其憤墓を只暫しなりと、
見るに忍びぬ一の目眸まなざしあり。

  (二)

何處に御身の美しき死屍むくろは横はりしかを問はず、
我は又其憤墓を見んことを望まず、
如何に花木雜草多く生ずるとも、
我はそれ等を見ざるなり、
愛せしもの、長く愛すべきもの、
一般生物と均しく朽つべきことを、
その我に證するに餘りあり、
我は何等過去思ひ出の石碑を要せず、
我が斯くも深く愛せしものは空無ナツシングなり。

  (三)

過ぎし永き年月寢りもせず、
今も尚ほ變らざる、
御身に劣らず熱心に、
我は御身を最後までも愛しぬ、
返らざる死ゆへ終りし戀愛は、
敵も奪ひ得ず、年も薄らげ得ず、
又は虚僞も非認し得ず、
我が身に於けるあらゆる過失變化は、
御身見るを得ざるなり。

  (四)

我等は嘗て幸福なる生涯を送りき、
不幸なる歳月に惱むは只だ我のみ、
花やかなる太陽、物凄き暴風雨は、
最早や御身のものならず、
夢なき平和の睡眠を、今や
我嘆かんには餘りに多く羨めり、
あらゆるそれ等の艶美は過き去るも、
長き衰殘の行程を守り得足らんと、
我れ決して/\追惜せず、

  (五)

絶美なる滿開の花は、
風雨之を散らす速かなり、
何物も不時に奪はざるに、
樹葉は朽ちて地に落ちざるべからず、
さはれ、一葉又一葉、衰殘するを見るは、
一時に摘み取るを見るよりも、
いと/\悲しみ多き事なりき、
故に美より醜に變ずるを告んには、
世例の我等の目には實に忍ぶに難し。

  (六)

我は御身の艶美の衰ふるを、
見るに忍びしか否やを知らず、
斯かる朝に從つて來る夜や、
その影や甚だ深く淋しかりき、
御身の生涯は悲しみの雲なくして過ぎ去れり、
恰も、空を流るゝ星辰の、
天より下るとき其光一層清きが如く、
御身は最後までも愛らしく、
衰頽せしにあらずして消え失せぬ。

  (七)

我は御身の枕邊に夜もすがら坐して、
再び親しく見守り能はざるを思ふて、
我は泣きぬ、あらゆる涙の内、
我が涙は濺ぐに尤もふさはしからん、
我が胸に優しく御身を抱き、
御身の垂れかゝる頭を擧げて、
我も御身も又と感じ得ざる、
切なき愛を現はし、
御身の美しき顏を見たらんには、
あゝ/\如何に愛らしく嬉しき事ならん!

  (八)

さはれ、例令御身は我が自由のものなりしとも、
尚ほ殘る最愛のもの得んには、
斯く御身を記臆するよりは、
如何に僅少なる事なるぞ!
幽暗なる永劫エターニチーを通じて、
決して滅せざる御身のあらゆるものは、
再び我れに返り來り、
存生の多幸を除きては、
世の何物よりも葬られし御身の愛は一層深く尊し。

(※(二)「長く愛すべきもの」は底本では「長く愛すべきのも」)

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』67コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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