2008年07月23日

『短編バイロン詩集』22去れよ、去れよ、汝悲哀の曲

  第廿二、去れよ、去れよ、汝悲哀の曲

  (一)

去れよ、去れよ、汝悲哀の曲!
嘗ては慰藉の調なりし汝、默せよ、
然らずは我れ此處より去らん──あゝ何の爲め!
我は再びその、調音を信ぜず、
それ等は我に既往の樂しき月日を語る──
されど、今やその管弦を鎭めよ、あゝ何の爲め!
我は考へず、我は見得ず、
我が現在を──我が既往を。

  (二)

その調音を一層樂しからしめし聲は、
既に沈まりしが故に、あらゆる其優婉は去りて、
靜かなりし其曲や今や、
死者に對する悲歌となり讃美歌となる!
然りズールザーの呼吸は、
塵土を愛せし!汝が塵土となりしより、
嘗ては麗はしく妙なりしものも
我が胸には實に/\不快の曲となりぬ、

  (三)

凡ては鎭まれり──されど我が耳には、
深く記臆に印されしその、響音強く鳴り渡り、
我は聞くを欲せざる聲、
靜かなるを望ましき聲を聞きぬ、
尚ほ屡我が疑深き精神は震はんとして、
夢幻の中にさてその軟かなる調を認め、
例令夢去るもそを聞かんと、
我が意識は空無あだに目醒むるなり。

  (四)

優しきズールザ!睡眠中に於ての醒むる、
汝は今や只だ一の愛らしき夢なり、
蒼空に輝く星は、
その温和なる光を地球より反映す、
されど人生の險惡なる道を辿らざるべからざる彼は、
皇天怒憤に掩はれし時、
彼の行路に喜悦を散ぜし、
消へ去りし其光線を長く/\悲しむならん。

(※屡は「尸+婁」、第3水準1-47-64、屢、しばしば)

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』65コマ〜


posted by 天城麗 at 00:00| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
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