2008年07月20日

『短編バイロン詩集』19希臘の恋愛歌(一)

  第十九、希臘の戀愛歌(一)

  (一)

あゝ!戀愛は尚ほ決して、
苦悶、悲哀、疑惑なき能はざりし、
そは不斷の嘆息を以て我が心を苦しめ、
尚ほ晝夜は光なく淋しく轉ずるなり。

  (二)

我が悲哀を慰むる一人の友なく、
我は、我は寧ろ無情の風に打たれて死せんことを欲す。
戀愛の箭矢を有するは我能く之を知る、
あゝ!されどそは餘りに深く毒附けられたり。

  (三)

小鳥よ、戀愛の屡御身の來る處に置きし、
網を尚ほ自由に避けよ然らずは、
彼の不幸なる熱火に圍はれて、
御身の胸は燒け御身の望は絶え果てん。

  (四)

我も甞ては樂しき幾年いくとせの春、
自在なる羽翼を有する小鳥なりき。
されど悲しや巧みなる羅網わなに捕はれて、
我は燒けて今や力なく此處に羽ばたきす。

  (五)

戀せしことなき人、あだに戀せし人は、
つれなき拒絶こばみ、蔑しむ目眸まなざし
怒れる戀愛の一瞥に宿る閃めき等の、
苦悶を感じ得ず又憐れみ得ず。

  (六)

諂ひがちなる夢に、我は御身を戀人と思ひぬ、
されど今や望と望める彼は衰へたり、
融くる石臘の如く、凋む花の如く、
我は我が情念と御身の勢力を感ず。

  (七)

我が生命の光!そのえみなき唇と目は、
あゝ何故の變化ぞや、
戀愛の我が小鳥!我が美しき友!
御身は變わりしが而して厭ひ得るや。

  (八)

我が目は冬の流の如く冷かに溢る、
如何なる薄命の人が我と悲哀を變へんと欲するぞ
我が小鳥!憐れと思はれよ、只だ一曲の歌は、
御身の戀人に生命を與ふる魔力を有するぞよ。

  (九)

流れぬ我が血潮と、狂へる我が心とを、
沈默の悲痛の中に我は僅かに支ふ、
而して我が胸は破れつあるに、尚ほ御身の胸は、
些の苦悶もなく喜び躍るなり。

  (十)

あゝ御身、恐れず激毒を我に注げ!
御身は今よりも劇しく我を虐殺し能はず、
我は我が生日を呪はんが爲めに生きぬ、
而して戀愛は斯くも殺害を延べ得るなり。

  (十一)

痛痕いたでを負ひし我が心、血潮滴る我が胸、
忍耐は汝に慰安を與へ得るか、
あゝ/\!餘りに遲し、我は其喜びの
悲哀の先驅なるを熟知せり。

(※屡は「尸+婁」、第3水準1-47-64、屢、しばしば)

底本:
国立国会図書館 近代デジタルライブラリー『バイロン詩集』59コマ〜


posted by 天城麗 at 21:33| Comment(0) | 短編バイロン詩集 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。