2009年10月01日

バイロン文界の大魔王 第一章06

バイロンの十一歳の時、チヨウヲース氏を殺害したる大伯父卒す。詩人バイロン貴族の爵を継ぐ。此時に至るまではバイロン其母と共にアバーヂーンの一小屋に貧しく生活し居たりしが、此に於て貴族の爵を継ぎ、ニューステッドの壮大なる邸宅を得て此に移転す。此の時母子の歓喜名状すべからざりしなり。元来バイロン家は英国貴族中旧家の一なり。バイロン貴族の品威を有して傲慢なる所あり。ハーロー小学にありし時、生徒中に争ひありて党を作って二分せり、其一方のもの、バイロンを自党中に入れんと欲す。一生徒ありて曰く『バイロンは人後に立つを好まざるを以て、恐くは我等の党には加はらざるべし』と、此に於て、バイロンをして其党の命令者たらしめんとの約束を以て、初めて彼等の党に加はらしめたり。彼れの不覊独立の精神は、常に教師の命令を軽蔑し、圧制及び法則に反対し、決して自己の人格を破る事なく、人に降伏せんよりも寧ろ万人を敵として倒れん、毫毛なりとも弱きを人に示さんよりは、如何なる苦痛をも之を忍び、如何なる困難をも必ず之に抵抗せんとの気象あり。彼れ機械を以て足を治療するの時、人之を見て痛む無きやと問ふ。バイロン曰く『君、憂ふること勿れ。君は我容貌に於て些少なりとも苦痛の徴を見ざるべし』と、これ小児の時なり、此の情態を以て彼れ大人と成長す。



○自尊
ラベル:木村鷹太郎
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2009年10月02日

バイロン文界の大魔王 第一章07

天才は早熟多し、バイロン八歳の時、メリー、ダッフと云へる少女を慕ふ。宛もイタリアの大詩人ダーンテが、八歳已にベアトリチェを恋慕したるが如し。十二歳の時又た従妹、マーガレット、パーカーに恋着し、爲めに食せず眠らず、念々忘るゝ事能はず、精神休む時あらざりしなり。
此時よりバイロン詩を作り初めたり。其詩はパーカー嬢を称美せしものなり。パーカー嬢に対する恋は、バイロンをして詩人たらしむる階段を為せしものと云ふべし。
十六歳の時美麗なるチヨウヲース嬢を恋慕す。嬢はバイロンの大伯父に殺されし所のチヨウヲース氏の孫女なり。バイロン、嬢と結婚せんと欲す、嬢時に年十八、バイロンに長ずる事二歳。既に他に婚を約せり。嬢の婚したる時、バイロンの母彼れを膝下に呼びて告て曰く『汝に聞かすべき事あり、汝の「ハンカチーフ」を用意せよ』と。バイロン曰く『何の用かあらん』。母曰く『ハンカチーフを用意せよ』と。バイロン其如くなせり。母曰く『チョウヲース嬢は結婚せり』と。バイロン直ちにハンカチーフを衣嚢に押し入れ何事もなき淡冷なる如き容貌を以て云ふて曰く『たゞそれのみの事なるか』と。母曰く『汝必ず非常の歎きに沈むべしと思ひたり』と。バイロン答へずして他を言ふ。然りと雖心中の失望と落膽とは実に非常にして。神気爲めに沈鬱すること之を久うす。後チョウヲースの分娩せし時、バイロン招かれて、行て之を祝す。後再び招かれて行くべきの機有りしと雖、其姉レー夫人止めて曰く『行くこと勿れ。若し行かば汝再び恋愛の情を起し、遂に事あるに至らん』と。遂に行く事を思ひ止まりたり。宛もこれゲーテのウェルテルの苦悶の如きなり。チョウヲースとの関係に就ては、バイロン『夢』の篇中、いと悲しく詠み出し、人をして涙の中に悲哀を語り聞かさるゝが如きの感あらしむ。



○バイロン八歳の恋十二歳にして詩を作り始む
○チョウヲース嬢のいたましき恋愛
○ゲーテのウエルテルの如し
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2009年10月03日

バイロン文界の大魔王 第二章01

 第二章 ケンブリッヂに於けるバイロン

一千八百〇五年、バイロン十七歳にしてケンブリッヂのトリニチー大学に入り、殆ど三年間此處に止まりたり。
天才は早熟多し。バイロン尚ほ少年の時早く既に非常の読書力を有し、広く各方面の書を読めるを見る。大学に入りし其年より備忘録を記し始む。其内従来読みたる所の書籍を列挙して曰く(十五歳前に読みしもの)

  歴史類

○英国史は─Hume, Rapin, Henry, Smollet, Tindal, Belsham, Bisset, Adolphus, Holinshed, Froissart's Chronicles (belonging properly to France)
○スコトランド史は─Buchanan, Hector Boethius, 両書共にラチン語なり
○アイルランド史は─Gordon
○ローマ史は─Hooke, Decline and Fall by Gibbon, Ancient History by Rollin (including an account of the Carthaginians, &c.), besides Livy, Tacitus, Eutropius, Cornelius Nepos, Julius Caesar, Arrian. Sallust.
○グレシア史は─Mitford's Greece, Leland's Philip, Plutarch, Potter's Antiquities, Xenophon, Thucydides, Herodotus.
○フランス史は─Mezeray, Voltaire.
○スペイン史は─余は古代スペイン史の知識は専ら Atlas と云へるより得たり。此書今は行はれず。「アルベロニの陰謀」より「平和の君」に至るまでの近世史は欧州政治との関係より学びたり。
○ポルトガル史は─Vertot の歴史及びロースの包囲のはなしより学びたり。
○トルコ史は─余は Knolles, Sir Paul Rycaut 及び Prince Cantemir 等を読めり、此他今少しく近世のものも読めり。オットマン歴史は、余は Tangralopi 及び其後オットマン一世より一千七百十八年 Passarowitz の平和條約に至るまでの凡ての事変。─一千七百三十九年 Cutzka の戦争及び一千七百九十年トルコとロシアとの條約等を知れり。
○スエーデン史は─Voltaire's Charles XII, Norberg's Charles XII, (後者の方善しと思ふ)三十年戦争のシルレルの訳、此書はガスタパス、アドルファスの功業を記せるものなり。Harte's Life of Gustavus Adolphus, 余は又た Gustavus Vasa なるスエーデンの経済者の伝を読みたれども著者の名を記憶せず。
○プロイセン史は─少なくともフリードリヒ二世に関する伝記の二十種は之を見たり。プロイセン歴史に於て記すべきはたゞ此王あるのみ。
○ダンマルク史は─余は多く知らず、ノルエーの書は博物学を知れりと雖、歴史は知らざるなり。
○ドイツ史は─Histories of the House of Suabia, Wenceslaus, and, at length, Rodolph of Hapsburgh and his thick-lipped Austrian descendants.
○スウィッツルランド史は─嗚呼 William Tell, 及び The battle of Morgarten, where Burgundy was slain.
○イタリア史は─Davila, Guicciardini, the Guelphs and Ghibellines, the battle of Pavia, Massaniello, the revolutions of Naples, &c. &c.
○ヒンドスタン史は─Orme and Cambridge.
○アメリカ史は─Robertson, Andrews' American War.
○アフリカは─Mungo Park, Bruce等の旅行記
  伝記類
Robertson's Charles V.─Caesar, Sallust (Catiline and Jugurtha), Lives of Marlborough and Eugene, Tekeli, Bonnard, Buonaparte, all the British Poets, both by Johnson and Anderson, Rousseau's Confessions, Life of Cromwell, British Plutarch, British Nepos, Campbell's Lives of the Admirals, Charles XII., Czar Peter, Catherine II., Henry Lord Kaimes, Marmontel, Teignmouth's Sir William Jones, Life of Newton, Belisaire, 其他無数
  法律書類
Blackstone, Montesquieu.
  哲学書類
Paley, Locke, Bacon, Hume, Berkeley, Drummond, Beattie, Bolingbroke, Hobbes
  地理書類
Strabo, Cellarius, Adams, Pinkerton, Guthrie.
  詩類
英国著名の詩人は、スコット及びサウゼーに至るまで盡く読みたり。仏国の詩の或者は原書にて読む、其内 Oid は余の好む所、イタリア、グレシア、ローマの詩は多く読めり、余は是等の国語の詩文は多く訳したり。
  演説書類
Demosthenes, Cicero, Quintilian, Sheridan, Austin's Chironomia, 革命より一千七百四十二年に至る国会議院の討論筆記
  神学
Blair, Porteus, Tillotson, Hooker(皆な冗長なり)余は宗教の書を好まず然れども神は愛せざるに非ず、
  雑書
Spectator, Rambler, World, &c. &c. 小説数十、
之れ皆バイロン十五歳に至るまでに読みしものなりと云ふ。然りと雖果してバイロン盡く之を読み終りしか多少疑なきに非ざるなり。兎にも角にもバイロンの早熟にして他人の為さゞりし事も早く之を成せしことは否む可からざるなり。バイロン其備忘録に記して曰く、『これらは十五歳までに読みしものなりと雖、余はハーローを去りて後は甚だ怠惰となり、詩を作り、女を愛することを専らとするに至れり』(一千八百〇七年十一月三十日)と。



○バイロン十五歳前に読みし書物目録

トーマス・ムーアのLife of Lord Byron, Vol. 1 (of 6) With His Letters and Journals
http://www.gutenberg.org/etext/17684
"LIST OF HISTORICAL WRITERS WHOSE WORKS I HAVE PERUSED IN DIFFERENT LANGUAGES." 以下を参照した。
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2009年10月04日

バイロン文界の大魔王 第二章02

バイロンの大学に在るや不規律放縦の生活を為し、数学及びラチン語等の如きは、其最も嫌ふ所たりしなり。凡て天才の人を見るに多くは数学を好まざるが如し。
バイロンに学科に怠惰なるのみ非ずして、夜を以て昼となして、其身を放蕩し飲酒にのみ耽り居たり。されども彼れ一箇の伊達者なるを以て、身躰の肥満せん事を恐れ、食量を減じて饑を感ずるまでに至れり。或時の如きは二日間僅々少量の「ビスキット」及び嚼乳香を食するの外、他に一物だに食すること無く、間断無く種々の酒を暴飲せり。或時は夕六時より飲み始め、中夜に至るまでに「シヤンパン」一壜「クラレット」六壜を尽くして而も酔ふ事あらざりしなり。然りと雖、此かる不節生は遂に身躰の健康を害するに至れり。之を以て、彼れ時々節生する事ありと雖、其短時間の節生は以て不節生より来りし害を補全するに足らず。胃も今や消化に堪えず、精神亦調和を失し、身躰は精神を害し、精神は又た反射して身躰を害せり。或時は「ヒポコンドリー」を起こして渇を感ずること甚だしく、寝に就くの前「ソーダ」水の三十壜を飲むも、渇尚ほ止まず、怒て壜頭を打破りし事もありたり。
バイロンと共に在りし者の言に曰く『彼れ数日の間殆ど狂せるが如しと雖、一日美麗なるものを見るに当てや、其本心は忽ち覚醒して高尚の人となる』と。バイロン性質傲慢なりと雖、音楽を聞く時は常に涙を流したり。



○大学生活の不規律
○放蕩飲酒
○大酒
ラベル:木村鷹太郎
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2009年10月05日

バイロン文界の大魔王 第二章03

バイロンのケンブリッヂに在るの日は真に怠惰にして其『閑散時』と云へる短篇の詩集を出版したるは此時なり。『エヂンバラ評論』の、此書に下したる批評は最も過酷なるものにして、其詩の包含せる思想は神人共に許さゞる所なりと云ひ、其詩は真の詩に非ずと批評せり。バイロン大に怒て復讎を企て忽ち『英国詩人及びスコットランドの批評家』と題せる嘲罵の詩を作り、英国文学界の全人物を攻撃し、其敵のみに非ずして、自己に関係無き者、及び後来親く交はりし所のスコット及びムーア等をも攻撃し、八方に敵を作れり。殊に烈く攻撃したるは湖畔詩人にして、コレリッヂ、ヲーヅヲース及びサウゼー等なり。サウゼーを謂ふては『歌曲商人』となし、ヲーヅヲースを謂ふては『其学派の愚鈍なる弟子』『愚朴のヲーヅヲース』『月夜を昼と誤る所の白痴は其詩人の如し』となし、コレリッヂを以て『曖昧』なりとせり。バイロンが湖畔詩人を攻撃するは素より種々の理由あるべしと雖、彼等の宗教家的にして曖昧神秘の言語を並列し、空想なる形而上学に其神魂を奪はれ、古風なる信仰に依頼し、旧法儀式これ守り、毫も真率なる所なく。外観悟れる如くにして、内寛俗臭紛々たる偽善者なるに由りしならん。バイロン憚ることなく彼等を攻撃し、思ふ所、感ずる所、尽く之を吐露して残すことなし。其感情の激烈なる、自らヴェスピウス及びヘクラの噴火山に比較せり。



○『閑散詩』と云へる詩集の出版
○批評宜しからず
○バイロン怒り『英国詩人及びスコットランドの批評家』を著はす
○一切の文学者を罵倒す
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